ade knights
翡翠の騎士

 白鳥城 朝日の差し込む回廊

 ディエスとノクスの戦いの時、ディエスに与した四人の友がいました。
 南の<星瀑布>に住まう龍王、トゥバン。
 東の<流砂洞>に住まう巨人、リゲル。
 西の<香炉山>に住まう不死鳥、ザウラク。
 北の<明鏡湖>に住まう魔女、ナヴィガトリア。
 彼らは長く激しい戦いの果てに、ついにノクスを北の果ての更に向こうの、<奈落>へと封じこめました。
 その後、ディエスは世界を四人に託し、七つの雲海の果てに隠れてしまいました。そこで四人は世界を四つに分けて、それぞれの王国を築き上げたのです。
 トゥバンは水の王国ドラコニア。
 リゲルは砂の王国オリオネア。
 ザウラクは炎の王国フェネキア。
 しかし、ナヴィガトリアだけは、王さまにはなりませんでした。
「私はノクスが二度と蘇らぬよう、この大地を氷で覆い尽くそうぞ」
彼女は北の大地を吹雪で覆い隠し、凍った湖の上に氷の城を建てて、そこに住みました。そして<銀の河>の水から宝冠を創り出すと、民の中から一人の男を選び出し、銀の河の流れる土地に国を建てよと命じました。その男こそが、キグナスの初代の王デネブです。
「デネブよ、お前は十二人の騎士を選び出し、国を影から守るのだ」
デネブは優れた騎士を十二人集めると、清き河で採れる良質の翡翠に因み、<翡翠の騎士(ヤーデ)>と名付けました。
 それからというもの、ヤーデはディエスとナヴィガトリアの両者の名の下に、長きにわたり王国の平和を守ってきたのです。

 儀式の時間が間近に迫った頃、大きな窓から朝日の差し込む回廊に、ささやくような呼び声が響いていました。
「騎士長!」
若草色の衣をまとった年若の騎士が、なるべく靴音を立てまいと控えめに走りながら、騎士長を探しているのです。
「騎士長……!」
 長い回廊を駆けていた騎士は、東に向いた露台の近くまで来て、ようやく立ち止まりました。彼の目が、深い森を思わせる濃緑の衣——それは上位のヤーデの証——を捉えたからです。
「騎士長、こんな所にいらっしゃったのですか……間もなく儀式が始まってしまいますよ」
しかし騎士長と呼ばれた男は返事もせずに、険しい顔で北の空の向こうを凝視していました。口を真一文字に引き結び、南の温かい海を思わせる電気石(トルマリン)の瞳を見開いて——
 その並々ならぬ雰囲気に不安に駆られた騎士は、彼を真似て空を見上げました。けれどもそこには、どこまでも青く澄んだ空が広がっているばかりです。
 若き騎士が困惑して何か言いかけた時、騎士長は出し抜けに言いました。
「嫌な予感がする」
「えっ?」騎士は素っ頓狂な声を上げました。「こんなに素晴らしい朝ではありませんか!」
それでもなお、騎士長は空を見上げています。
「どうも静かすぎる。それに、風の流れも、どこかいつもと違うのだ」
いくら耳を澄ましても、いつもは夜明けと共に歌い始める鳥たちの声が、少しも聞こえてきません。また、初夏だというのに風は冷ややかで、どこかよそよそしく頬を撫でるのです。
「云われてみると、この季節にしては少し肌寒いような気もしますが……」若き騎士は、風の香りをかぐような仕草をし、肩をすくめました。「それがヤーデの力なのですか?」
騎士長は彼の問には答えませんでした。その代わり、胸の十字の飾りに手を触れ、「大いなる流れの導きあれ(ウィス・グラン・フルーム)」と祈りの言葉を厳かに唱えたのです。