夜行列車

 おい、と隣の男が話し掛けてきた。草臥れた襯衣に擦り切れたズボンを穿いている、何とも薄汚い男だ。髪も髭もボウボウに伸びている。鼻を突く臭いに顔を顰め、私は成る丈関わり合いになりたく無いなと思い乍ら、打っ切ら棒に返事をした。
 男の噺は、今夜は矢鱈と首無しの奴が多くはないか、と云うような事だった。周囲を見渡すと成る程、確かに男の云う通りである。実際、私の斜向かいに座っている奴の首は、皮一枚で辛うじて繋がっている程であった。
 しかし、夫れは別段変わった事ではない——
 私は夫れが如何かしたのかと云った。すると男は、別に、と答え乍らもまだ何か云いたげな様子である。だが私は其れ以上彼と話したくなかったので、態と訊かないことにした。

(了)