rologue
はじまりの物語

 遥か遠い昔のこと、ギャラクティカにディエスとノクスという二人の王がいました。
 ディエスは生を司り、昼を治める光の王でした。
 ノクスは死を司り、夜を治める影の女王でした。
 二人の王は互いに不可侵の契約を結び、悠久の均衡を守り続けていました。その両者の下で、民は心安らかに暮らしていたのです。
 ところが、いつしか民は二人の王をも凌ぐ智慧を身に付けるようになりました。昼を夜に、夜を昼に変えるほどの力を得た彼らは、互いに地位や権力を求めて争いを始めたのです。彼らの諸行のために広大な土地が焦土と化し、海や河は暗く淀み、大気は憎しみと怒り、そして悲しみで溢れてしまいました。
 そんな世界を憂えたノクスは、影の眷族(オーメン)を率いてすべての民を滅ぼそうとしました。
「私は日に一万の魂を狩ろう」
 一方のディエスは光の眷族(ルーメン)を率いて、それを制止しようとしました。
「ならば私は日に一万五千の魂を守ろう」
 双方の対立は、世界を二分する大戦へと発展し、それまで以上に世界を荒廃させてしまいました。憎しみが影を呼び、その影がさらなる影を呼び寄せ、そしていつの日か、世界は明けることのない闇夜に閉ざされてしまったのです。
「希望の星は地に落ちた。地は罪深き血に満ちた」
 ディエスは荒れ果てた世界を浄化するため、四人の盟友と共に、世界の中心を流れる<銀の河>を氾濫させました。これが世に云う<星海嘯>です。大いなる流れによって地上の影は押し流され、終にノクスは闇の深淵に封じられたのです。
 しかし、<星海嘯>の残した傷跡は、闇の淵よりも深いものでした。聖なる流れは大地を削り、森を飲み込み、そこに生ける多くの者たちをも、押し流してしまったのです。
 ディエスは彼らの魂(アニマ)を率いて天へと赴き、その全てを星へと変えました。そして自らは七つの雲海の果てに城を築き、そこに籠もったのです。
 長き時を経て地上は再び生命で満ち溢れ、平和な時が訪れました。しかし、ディエスは二度と地上に下ることはありませんでした。そして今も、この空のどこかで私たちを見守ってくださっているのです——

エバステル侯爵夫人の語り
シドゥス・F・レギス『ギャラクティカ物語』より抜粋